固定種野菜って何?
農家が昔から自家採種をしながら栽培してきた野菜です。自然界の植物として、自然の摂理に沿った種が採れます。50年ほど前までは、この固定種野菜や在来種がごく一般的に栽培され、八百屋さんで売られていました。しかし、現在ではわずかにレタス、牛蒡、シソ、豆類などの一部の品種か「伝統野菜*」として知られる野菜しか流通していません。京野菜の加茂なす、金時人参、あるいは群馬の下仁田ねぎなどを思い浮かべていただくとイメージしやすいと思います。これらの野菜は、種を採って翌年播くと、親と同等の性質を持つ子(作物)が育ちます(固定種とは、特定の特徴を在来種から固定化した自家採種出来る品種のことで、伝統野菜といった古い品種のみを意味するものではない)。
野菜の性質はその地域の気候風土の中で、選抜淘汰され、その地域にあった特性で固定化されていきます。現存する最も古い固定種は、300年以上の歴史を持つ京都丹波の黒大豆です。それに続いて、長野の野沢菜が240年以上、京都の聖護院大根が200年近く栽培されてきました。また、明治から昭和初期にかけて、多くの固定種が育種機関のもとで、品質向上のために各地方の在来種から育種されました。これらの野菜を食べて育った人は、最近の野菜は「美味しくない」、「味がしない」と言います。
一体、野菜に何が起きたのでしょうか。現在スーパーに並んでいる野菜に。
1960年代後半から、人為的に品種改良された交配種という野菜が出てきました。これは近年、問題になっている「遺伝子組み換え作物」とは違います。
交配種とは、二つの異なる特徴を持つ品種を掛け合わせて作られた雑種第一代(F1)のことです。例えば、形は良いが病気に弱い親と形は悪いが病気に強い親を掛け合わせると、形が良く病気に強い品種が出来ます(下記図参照)。
この交配種は均質な両親の性質のうち表現型において顕性**な特徴が発現されるため、品質が揃います。また、一般的に遠縁の両親間で掛け合わせを行うと両親の平均的な能力よりも優れた特徴を示す「雑種強勢」と言う現象により、生育が旺盛となり収量が多くなることがあります。
交配種の導入により、かっぱ巻きを作るのに都合がいいよう、海苔のサイズに合わせたキュウリなどというものが作られるようになったのです。生育スピードが速くなり、「旬の味」が消え、周年栽培が可能になりました。F1品種は大量生産・大量消費社会の需要に叶った野菜なのです。F1品種の開発に際しては、当初は必ずしも味は重視されませんでした。また、多肥栽培による収量重視の栽培では農薬の使用が不可欠となり、農薬や化学肥料の使用が前提となった品種が育成されました。
そして、種の問題を考える際に一番重要なのは、交配種からは親と同じ性質を持つ種子が採れないということです。F1から採った種を蒔いても、雑種二代目(F2)は形や性質が異なる不揃いなものになってしまいます(上図参照)。そのため、交配種の種は毎年、同じ組み合わせの交配を行って作らなければなりません。つまり農家は自家採種が出来ず、種苗会社から毎年種を購入しなければならなくなったのです。
* 「伝統野菜」=「固定種野菜」とは言えなくなっているようです。下記参照(最後から7段落目から)。
http://noguchiseed.com/hanashi/shinryoukenkyu.html
** 日本遺伝学会はメンデルの遺伝学の訳語として使われてきた「優性」「劣性」を「優性」は「顕性」、「劣性」は「潜性」に改訂しました。http://www.huffingtonpost.jp/2017/09/06/genetics-society_a_23199512/